実際に作曲やアレンジをしていくプロセスについて記録します。
※視聴リンクはこちら
YouTube https://www.youtube.com/watch?v=0OzbvRmeubw&t=6s
niconico https://www.nicovideo.jp/watch/sm40701362
ピアノ
まずはピアノです。
この曲のA、Bメロはピアノが伴奏のメインを担うようなアレンジにしており、ちょっと弾き語りチックな構成になっています。
基本的にはコード弾きを中心として、アルペジオや裏メロ的なフレーズ、オブリガード等を歌の邪魔になりすぎないように入れます。
ピアノの譜面はヴォイシングにこだわっており、トップノートの流れの美しさを重視し、所々テンションコードも良いなと思ったところに入れてます。
ちなみにピアノ音源は、LABS Spitfire audioのsoft pianoという音源を使っています。
LABSは個人的にかなりのお気に入りで、実際に楽器の音をサンプリングしているものだと思うのですが、とにかくどれも音が良いです。
LABSのピアノ系(アコースティック、エレクトリック、ウーリッツァー等)やドラム音源は多用しがちで、中でも「Shellter」はベース、シンセ以外の殆どのトラックがLABSでできてます。
このピアノはカチカチとしたアタック音、優しい音色が特徴的で、アタック(トランジェント)を強調するために少しEQで高域をブーストしてます。
アコギ
次にアコースティックギターです。
作曲家・澤野弘之さんの「ninelie」がとても好きで、この曲のような煌びやかなアコースティックギターを入れたいと思い、自分で弾いて録りました。
ギターは色々な方が仰っている…ような気がしているだけですが、ソフトのクオリティを上げるのが難しい楽器であり、やはりまだまだ生演奏の方が良い音で録れると考えています。
ギターを練習しよう!!!
ということで、ギターの譜面を考える上でこだわったのはアルペジオと、やはりヴォイシングです。
私が個人的にアコギで好きなコードはオープンコード、すなわち開放弦(指で押さえずに弾く弦)を含むコードです。
理由は、開放弦は一番煌びやかな音色がするからです。
試しにギター持っている人は2弦の5フレットを押さえたEと、1弦開放のEを聞き比べてみて欲しいと思います。
押弦した弦の音は少し角が取れて丸くなった、暖かみのある音が出ます。
今回は、夏らしい透明感のある爽やかな音色にしたかったので、オープンコードを多用した譜面にしてあります。
特にオープンコードとアルペジオの相乗効果による音色の美しさはたまりません!
ある程度コードを知っててギター弾けるぜ!って人はいつも同じ押さえ方じゃなくて、曲の雰囲気にどんなヴォイシングが合うか、という観点でアレンジを考えると面白いと思います。
私もよく、普通じゃないコードの押さえ方を探す、1からエモいコードを作るみたいなことしてます。
また、アコギは2回録って左右にパンを振るやり方がすごく好きなので今回もそうしてます。
まるで1つの音源データを複製するかのように同じ譜面を2回録るのですが、これを違和感ないように合わせるのがまあ難しい…。
ある程度良いテイクが録れたら、オーディオワープ機能を使ってタイミングを修正して合わせましょう。
ストリングス
ストリングスについて、アレンジで意識したことですが、和声(ヴォイシング)に結構気を使いました。
まあそれでも全然正しい音使いにはなっていないと思いますが…。
あとはオケの楽器編成や配置(パン振り)も、途中で結構大掛かりに変更しながらやりました。
ネットで色々調べながらやったのですが、一般的なクラシック音楽のオケは上手が低音弦楽器、下手が高音弦楽器という配置になっています。
一方で、劇伴音楽とかサウンドトラック系はちょっと違って、コントラバス(一番低音)を中心に配置するようなやり方があるみたいです。
途中までは伝統的なオケの配置で試してましたが、聞こえ方があまり気に入らず、後者のやり方の方がしっくりきたのでそのようにしました。
ストリングス系のトラック数は5つで、大体のイメージとしては次の通りです。
1・・・1stヴァイオリン(メロディー部分の音量を傘増しするため)
2・・・1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、3rdヴァイオリン
3・・・1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、3rdヴァイオリン
4・・・コントラバス
5・・・ヴィオラ、チェロ
6・・・ヴィオラ、チェロ
パンの振り幅も途中までLR最大で50までしか振ってませんでしたが、実験的に思い切って試した結果90くらいまで広げることにしました。
コントラバスをセンターに据えて基準とし、他をそれぞれバランスよく振ります。
音量バランスは後ほどボーカルを入れることを想定して、基本的にはセンターに近づくほど小さめ、LRに広がるほど音が大きくなるように設定します。
ただ、単純にやってもヴァイオリン(メロディー)がデカすぎとかなると思うので、最終的には耳で判断します。
音作りに関しては、HALION Sonic SE 5に収録されているストリングス音源を使用しましたが、なるべく違うプリセット音源を複数レイヤーするようにしました。
1種類の音源だけで済ませると、聞く人が聞けばどうしても音源臭く感じてしまうというか、粗が出やすい気がします。
ソフト音源のストリングスも楽器単体をシミュレートしたものや、鍵盤1つ押すだけでホールで演奏しているような感じがするもの等、色々種類があると思います。
そもそもオケは1つの音を複数人で演奏するものなので、オケを表現するならホールをシミュレートした音源であっても、
若干違う音色の音源を沢山重ねた方がよりサウンドがリアルになるかと個人的には思います。
また、音源にもよるかもしれませんが、ストリングスパートが豪華になってくると音ズレ、主にアタックの遅れが気になることがあるかと思います。
そんな時はトラックの再生位置(演奏し始めるタイミング)を少し早めたりすることで改善します。
個人的に、全てのパートの打ち込みと録音が終わった後の音ズレ修正がかなり大変でした。
メトロノームの音をよく聞きながら、違和感のないように修正しましょう。
ビート
次に、ビートや効果音について話します。
ビートは、Aメロで登場するノイズ等のサンプルを組み合わせたものと、サビで登場するキックの2種類があります。
イントロやBメロではそもそもビートが存在しないという割と大胆?な構成にしました。
Cubaseに付属するノイズのサンプル音源を主に組み合わせてビートを作るのですが、キックに該当する超低音のノイズ、スネアに該当するクラップ音、スネアのゴーストノート的なノイズ、
ハイハットに該当する高めのホワイトノイズの4種類を組み合わせています。
また、ビートをより複雑でカッコよくするために、音量小さめのループ素材を更にレイヤーしています。
サビではサブキックと呼ばれる音を単体で使っています。
サブキックとは、キックの音にレイヤーすることで低音を足してパワフルな音にするものなのですが、リズムパターンがキック1つだけというこれまた大胆なやり方をしてます。
この方法は何かの曲に感銘を受けて同じやり方をしたと思うのですが、リファレンス曲がどうしても思い出せないです…。
ミックスでは、元々サンプル音の「ド」の音程(トーン)が聞こえて、F♯メジャーであるこの曲に合っていないのがちょっと気になったので、
「ド」の音である67Hz付近を大胆にカットするという処理をしました。
また、アタック音を強調するためにEQで中音域より上をブーストさせてサチュレーターも掛けてます。
更に、サビではキックが鳴るのに合わせてシンセベースにサイドチェインがかかるように設定してあります。
本当はがっつりサイドチェインを掛けたかったのですが、リズムが後ノリになりすぎるのが聞いててあまり気に入らなかったため、弱めの設定です。
後は、Aメロに入る瞬間やサビに入る瞬間のシンバルリバース、雨の音、サビ冒頭のドーンというインパクト音を要所要所入れています。
雨の音は、実際に雨が降っていた時に自宅の窓際にレコーダーを置いて録ったものを使用しています。
マリンバ
続いてマリンバです。
何かしら鍵盤打楽器の音を効果音的な感じで入れたいと考えていました。
この音の意味合いとしては、イラスト「雨の予感」に登場する風鈴の音を表現するためのものです。
当初は風鈴を表現するものだから、鉄琴系の楽器が合うだろうと思って使っていました。
しかし、他のトラックと合わせて聞いてみるとかなりアタック・高音域が強く、馴染まずに浮いて聞こえる印象だったので、幾分か音が柔らかい木琴系の音を採用することにしました。
これにディレイエフェクトを掛け、パン振りにおけるオートメーションを書くことで左右の動きが生まれ、ちょっと幻想的な雰囲気が出たかな、と思います。
シンセベース
次にシンセベースです。
サビのみで登場する音で、動きという動きも殆どなくひたすらルートをなぞるようなベースラインにしてます。
かなり重め・太めの音色で、ウワモノをどっしりと支えるような役割を担ってくれています。
普段かなり動くベースラインが個人的に好きなので、逆にこういうアレンジ珍しいかもしれないですね。
シンセベースはRetrologueにあるプリセットの音を少し弄って使っています。
音作りでやりたかったことは、ブルブル震えるような存在感強めのベースにすることだったのですが、
ブルブルレベルまでいくと数値的にかなり低域強めになってしまい、ベースの音作りの難しさを改めて感じました。
実は割と以前からベースの音作りに対する苦手意識があったのです。今後の課題ですね。
あとは、サブベースをレイヤーしたり、ベースの音程感(音程がハッキリと聞き取れる度合い)を出すためにオクターブ高めのシンセをレイヤーしたりしました。
シンセパッド
シンセパッドについてです。
ストリングスに被せるようなイメージで、1音だけ部分的に入れて曲を彩るという効果音的な使い方をしてます。
パッドはサビ等でコード弾きをしてウワモノを補うという使い方が多いのですが、今回はコード感を担うウワモノ部はストリングス・ピアノ・ギターと3つのパートが担っており、
十分音圧があると判断したのでこのような使い方になりました。
音源ですが、Native InstrumentsのETHEREAL EARTHのものを使っています。
これは比較的最近に無料でゲットしたもので、音を聞いたところ、癖が強いものの好みの音色があったので最近使用しています。
ボーカル
最後に、ボーカルについて話します。
ボーカルで意識したことは次の5点です。
・しゃくりやフォールを表現するために、言葉の語頭に違う高さの音を一瞬だけ入れる
・歌の強弱・緩急を「Dynamics」のオートメーションを書くことでコントロールする
・A、Bメロで静かめに、サビで張り上げっぽく声質の変化を付けるために「Cross Synthesis」のオートメーションを書く
・声部の増減によって曲の盛り上がり感を演出
・歌詞が明瞭に聞き取れるクリアな音になるように明るめのミックス
言葉の語頭に一瞬高い音を入れるのは単に音楽的な表現としても多用しますが、場合によっては普通に発音するよりも言葉が聞き取りやすくなることがあるため、効果的です。
Dynamicsのオートメーションは実際に歌う時の気持ちの込め方・緩急を想像しながら書いていきます。ひとまとまりのフレーズの中で低→高→低みたいに山を描くイメージで表情を付けると上手く行きやすいです。
サビだったら最初にバーンと迫力を出したいから高→高→低みたいに、いきなり高めに描き始めるのも良いと思います。
声部についてですが、最近よく取り入れているやり方で、メインボーカル&上ハモor下ハモがセンター、オクターブ下の主旋律を2パート分用意してLとR振り分けということをしてます。
注意点としては、オク下の2パートは全く同じものをコピーするのではなく、若干声質のパラメータに変化を付けるということです。
同じものを複製して左右に振るだけではイマイチパン振りの効果が得られません。
ミックスの知識がそんなにあるわけではないですが、ボーカルの音作りとしてディエッサーで歯擦音を抑えつつ、ちょっと高域をブーストさせます。
帯域としては大体5KHz〜辺りか、厳密な基準はなく割とテキトーですが。こうすることで発音が明瞭になります。
これは作詞も影響してくる要素ですが、言葉のイントネーション、単語の聞き取りやすさ等は結構意識してます。
歌モノを作る上手さとは、即ちメロディーの動きの高低と言葉のイントネーションが一致しているかどうか、歌ってみて違和感がないかどうかだと考えています。
この曲では適度に歌いやすいメロディー、言葉、韻の踏み方といった複数の要素を満たすことができたんじゃないかと思います。
次回に続きます。次は動画制作編です。
コメント